普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

怪我の話を聞くと苦み走った顔で患部をなでなでしてしまう

世の中には2種類の人間がいる。

電車とホームの間に落ちたことがあるものとそうでないものだ。

僕は今のところ後者だが、つい先日職場の上司が前者の仲間入りをした。聞くところによると上司は在宅勤務を終えた後に外出しひと落ちしてきたらしい。挙句、骨折までしているとのこと。内容としては膝の皿を割っているという。どんな落ち方したら膝の皿を割るんだろうと想像すると苦み走った顔で思わず膝を優しくなでなでしたくなる。

仕事が終わってからの時間帯でということは夕方から夜にかけてということだし、ひとがいないガラガラの状態でうっかりはまったとかそういうことではないのだろう。そうなると激混みの電車に乗り降りしようとしたときに押されてするっと滑り込むように溝にインしたことが予想される。そして上司はわりと身体が大きい方なので膝のところでスコンと引っかかってしまったのだろう。全体重かけて。そりゃ膝の皿も割れる。膝の皿全部割る。

最近はラッシュを避けて通退勤しているから味わっていないけど、乗降マナーの悪いひとって本当に信じられないくらいにどうしようもない。押すとかのレベルじゃなくてタックルだろそれ、というひともいるわけなのでこちらがどんなに注意していても突発的な事故として電車とホームの間挟まりは発生するのかもしれない。

上司の骨折の話は出社した際に朝イチで聞き、いやはや大変なことですなあと近くにいるひとと一通り話題について賑やかしていたところ、そこかしこから「実は私も落ちたことがあって…」「いや、落ちるよね」「酔って落ちたことが…」とこのときだけで3人から落下経験の自己申告があった。短時間、10人ほどのサンプルでこれなので、少なく見積もっても人類の2割くらいは電車とホームの間に落ちているんじゃないかと本気で思った次第である。

追加で得た情報によると手術までするという結構な大事となっているとのこと。基本的には同じ島で働く骨折上司の僕を含む部下たちは心配しているのだけど、ふだんから上司を煽り気味な女傑は手術の心配するふりをしながら恐怖心を煽り、上司と壊滅的に中の悪い長老はよく見るとほっこりした表情をしていた。そして別の島の数年前に脚を骨折した上司が松葉杖利用についての知見を披露している始末。清々しいくらいの通常運転。良い職場。

上司は救急で運ばれ骨折認定されたらしいのだけど、緊急性はないと判断されたのか一旦帰宅、そして次の日病院に行ったところ、手術医がいないからという理由で帰らされたらしい。怪我人を門前払いとは非情なこともあるものだなと思ったら意外にそういうことってあるものらしい。僕なら痛みを我慢できなくてなんとしてもすぐに手術してくれる病院を探してしまいそうだ。

ただ、今日上司が「落ちた直後の写真撮ったから見たいひとがいたら言ってくださいね〜。グロ画像かもしんないけど」とのたまっていたのでけっこう余裕があったのかもしれない。当人だからこその余裕というものだろうか。

前述の通り、割合を考えると僕のようなものがいまだに経験がないのが不思議だが、落ちないにことに越したことはないのでこれからも電車とホームの間に落ちない人生を送っていきたい。