普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

駅おじにからむ変なおじさん現る

出勤をする際、駅前の広場を通るのだけれど、その広場にはこの時期駅おじ(駅おじさん)たちが棲息していることが観測できる。

僕が出勤をする朝の時間には酔っ払った様子でクダを巻いており、帰宅する夕方頃にはやはり酔っ払ってクダを巻いている。たまに力尽きた様子で地面に転がっているが概ね無害だ。少なくとも僕には。僕からしてみたらほぼ幽世の存在である。

しかし、ひとによって考えが異なるのは当然。駅おじたちのことを快く思っていないサイドの人間もいたようだ。普段は交わらない彼岸と此岸をつなぐ存在を昨日目撃した。

いつものように駅前広場を通り過ぎようとしたら怒気をはらんだ男性の声が聞こえてきた。

「ここから出てけよっ!!!」

「いいから働けよッッ!!!!」

駅おじに対して怒鳴り散らしている。まあ…言っていることそのものは 別にそこまで的外れなことを言っているわけでもないとは思う。駅おじたちの生態的に明らかに働いてはいないだろうし、広場を散らかすし見た目にも良くはない。働け、出てけ、まあそう思うひとがいるのは納得できる範疇だ。

でもさ、わざわざ怒鳴り散らしに行くようなことでもないんじゃない?とも思う。しかもその男性はそこそこのおじさん。スーツこそ着ていなかったがこれから出勤するのだろうなといういでたちではあった。そんなひとが朝の貴重な時間を駅おじたちに割くってどうなのよ。正直、駅おじたちに絡みに言っている時点で同じフィールドに立ってしまっているわけで、はたからみたら絡んでるおじさんも発言の正当性はともかくただの変なおじさんにしか見えない。

しかも、駅おじもそういうことを言われ慣れてるのか変なおじさんをいなしまくっているものだから変なおじさんのボルテージはどんどん上がり続けている様子だった。「わかったからよ〜。もう向こう行ってくれよ〜」と、わかっていない人間の典型みたいな返しも変なおじさんの神経を逆撫でしたのだろう。

ただ、変なおじさんの声は聞こえなかったが、駅おじが

「家はありますぅー!!」

と返していたタイミングがあり、そのときその周辺にいた誰もが「あるんだ…」と思ったに違いない。

こんなふうに書けてしまえる程度には様子を見守ってしまったが、遅刻の理由が「珍獣対決を見逃せなくて…」と言えるほど僕の心臓は強くないのでかなり後ろ髪をひかれながらその場を去った。ここまで見ている時点で僕もうっすーく向こう側のひとのような気がするけどバトルフィールドに上がれるほどの傑物になるにはまだまだクンフーを積む必要がある。

駅おじたちクラスになると広場にちゃぶ台と座椅子を持ち込み、広場の広さを利用して洗濯物だって干す。そりゃバトルフィールドも張るし変なおじさんから家ない説を繰り出されるわ。

結局最後まで見届けることができなかったのが本当に心残りなのだけど、これで変なおじさんがいつの間にか駅おじたちの中に混ざって酩酊していたら新たな伝説の幕開けとなると思う。