普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

落ちたり狂ったり、恋は大変なようです

「恋に落ちる」という表現がある。web検索してみたところ差し出された言葉の要旨は以下。

恋してその状態から抜け出せなくなるさま、恋焦がれる状況から身動きが取れなくなるさまなどを表す言い回し。(weblio辞書)

まあそうだよなという意味合いである。基本的にロマンティックな表現として利用されると思う。ただ、冷静に考えてみると「落ちる」ってどういうこと?となる。

気持ちが陥落するという意味で落ちるだろうか。だとすれば"落ちる"より"落とされる"になるのでは。「恋に落とされる」。言葉の解説からも穴にはまって抜け出せなくなっているような状態なので正しいような気がする。でも落とし穴に落ちるときだって必ずしも落とされるわけではなく、不意に"落ちる"こともあるか。恋が必ずしも罠みたいなことになっているとも限らない。などと特に生産性のないことを考えていたところではたと気づいた。

あ、fall in loveかと。

英語に焦点を合わせ調べてみたところ、先にfall in loveという言葉が伝わり、それを翻訳しそのまま「恋に落ちる」という表現が使われることとなったという説もあるようだ。まあそういうことならと納得できたような、そうでないような絶妙なラインの腹落ち具合である。恋には落ちるのに気持ちは舞い上がるので行ってこい的なことで地上ゼロ距離感あるんじゃないかなと思ったけど、このなんとか上手いこと言いたい感じ、非常に中年ぽいなと思った。まあ中年なんですが。

英語での表現を翻訳してロマンティックに愛を語らうみたいなものの代表といえば夏目漱石がI love youを「月が綺麗ですね」と訳したという話が有名であるが、これはどうやら都市伝説的なもので事実ではないというのが濃厚なようだ。

いくらなんでも難易度高すぎだろうと常々思っていたのだ。愛してるってことを伝えたいのに「月が綺麗ですね」とか言ってしまっているのはコミュニケーションが完全に破綻していると思う。仮に僕がI love youの文脈で月が綺麗ですねって言われたら「あれ…?話そらされた…?」と思うだろう。それで愛しているという気持ちを察しろはコンビニバイトで初めて接客するお客さんに「たばこちょうだい」と言われ「どのたばこですか?」と聞いたら「セブンスターに決まってんだろ!」と怒られるくらいに理不尽だ。お前さんが何吸ってるかなんか知らんがな。というかお前さんを知らんよ。

英語での表現は日本語に訳すとおしゃれっぽかったりロマンティックに感じたりするものだけど、文章の組み立ての感性がそもそも違うので「おや?」と思うものは結構ある。その違和感を楽しむ向きもあるだろうけど。Crazy for youとか直訳で「おまえにイかれちまった」とかもはや味わい深さしかないものな。

落ちたり狂ったり、恋するのも大変だよね、とかまとめたいのにまとまらないので本日はおひらきです。

あと一歩でロマンティックになりそうな雰囲気を邪魔するツルハ