年に1度の移植外来に行ってきた。1年が光の速さで過ぎていることに狼狽しつつも、ちょっとしたお出かけ気分を味わえるということでわりと機嫌よく家を出たのだった。
病院に行くには新宿駅からバスに乗る必要があるのだけど、そのバスに乗るのも思えば1年ぶりである。前までは毎日のように新宿にいたのに、ここ数年用事がなければ寄りつかないし、用事があっても避けようとしているくらいに縁がない。特に西口はその傾向が顕著だ。
するとどういうことが起こるかというと、1年ぶりに訪れる新宿西口およびそこに辿り着くまでの道のりが知らない場所になっているということである。
いやね、ここどこ?って本気で思った。ところどころは知っている景色なのだけど、改装のレベルではなくほぼ転生という趣で新宿駅は様変わりしてしていた。特に地下から地上へ出る階段がどこにあるのかさっぱりわからなくて、迷いに迷って最終的に駅構内からではなく、連結している知っているビルの階段を使って地上に出た始末である。そこまで辿り着くのもわりと難儀した。新宿駅なんて勝手知ったるものと慢心していたが、ここにきて思い切り突き放された格好だ。
ただ、妙な高揚感を感じている自分もいた。全く知らない初めて訪れる場所で迷うのは不安でしかないが、前述のようにところどころ見覚えがある場所を確認できる状態の、いわゆる”知っている場所”での道迷いはある意味で新鮮さを感じることもできているような気がしたのだ。夢の中の景色を見ているかのような、日常の中の非日常に迷い込んだような感覚であったのかもしれない。「新宿駅」という場所でありながら構成要素を抑えつつ知らない場所になっているのはゲームで言うとことの不思議なダンジョン系っぽさもある。
こうして、変なテンションでやっとこさ地上に出てバスに乗ろうとしたところでその景色に驚愕した。
なんと小田急が綺麗さっぱりなくなっているのである。こうなるという話は聞いていたけど、いざ自分の目で確認するとおったまげる。これは今しか見られない光景だと喜び勇んで写真を撮ってしまった。
驚いたり感心しながらバスを待ち、バスに乗り込み発車してからも駅に釘付けで、車窓から見える新宿駅西口を横目に病院へ向かった。帰りに絶対写真撮ろうと思いながら。
そして用事が済んだ帰路、けっきょくたどり着くことが叶わなかった新宿駅西口も写真におさめた。
目隠しして連れてこられたら確実に新宿駅だと信じない。それどころか「新宿駅とか書いてあるけど雑な嘘つくなあ…」とまで思うだろう。特に3枚中の1枚目の地面。西口といえば3枚目のようにタイル敷きであったのに、それすら無くなっている。というかそもそも覆い被さっている高架みたいのはなんなんだろう。知らない場所すぎる。
知らない場所すぎてちょっと忘れていたが、かつての西口改札を出て、地上に上がったところにペデストリアンデッキへと続く階段があったのを思い出した。そういや無くなっているようなと思い、かつて繋がっていたその行き先を目で追ってみたところ
あったけど、けっこう大胆に撤去されていた。ああいう状態のデッキって初めて見た。ディストピア系のゲームのマップでしか見ない光景だ。さっきからなんでもゲームを連想していてゲーム脳がすぎる四十路ですまんです。でもああいう途切れているところのはじっこのところに宝箱とかあったりするんだぜ。
ちなみに、ペデストリアンデッキがと言う言葉がどうしても出てこなくて「なんとかデッキ」と投げやりに検索したらきちんとペデストリアンデッキが検索された。グーグルすごい。なんとかデッキしか出てこない民がわりといるということなんだろうか。
いやあ、病院そっちのけで新宿駅を楽しんでしまった。肝心の病院は滞在時間1時間あまりと驚きの簡素さで年中行事を終えた。なんだか病院がやけに空いていたような気がするのだけど、行っている先は昨今やたら評判を下げている某ウーマンメディカルな病院なので、その影響もあるのだろうか。
しかし、移植のコーディネーターさんはちゃきちゃきしていて印象は悪くない。この日はせっかく会うのだからと質問を用意していた。現在透析を続けているけれども、透析の技術というのはこの先どこまで進歩していくのだろうという趣旨の質問である。
ウェアラブル透析装置、要はポータブルで持ち運びができる透析装置が開発されるという情報を目にしたけれども、それについてはいかがお考えかという質問を投げかけてみた。
答えとしては「現実的ではないですね」といった回答。ま、そうだよなと正直思った。ネットの記事で見た限り、相当な眉唾感を醸し出していたのでむしろそう言ってくれて安心したとすら言える。透析患者なんてわりと高齢者も多いわけで、ああいった記事を信じて待ってしまったり、下手したら大金をつぎ込んでしまうひとまでいるかもしれないのでよくないよなあと思うなどした次第である。ああいうところから陰謀論にたどり着いちゃったりもするのかもしれない。
手早く用事を済ませ、様変わりした新宿駅もそこそこ堪能したということで帰路に着いた。この時点でまだお昼前。ならばとこの日はなんと区役所での用事まで済ませるという快挙まで成し遂げた。大車輪の活躍ぶりである。
お出かけ気分の〆はおいしいものと決まっているので区役所帰りにラーメンを食べてこの日のお出かけはお開きとした。なかなか良き休日でした。