夏の帰省をキメていた。前回の帰省時、せっかく地元方面に行くのだからと浜松に立ち寄り、静岡名物とされる浜松餃子と静岡おでんを飲み食いしその満足度の高さに気をよくしていたという経緯がある。
特に妻は静岡おでんに心を打ち抜かれており、東京に戻ってきてからも食べたがっていたのだが手頃なお店もなくその静岡おでんよくを満たせずにいた。ならばと今回の帰省では本場静岡市で静岡おでんを食べてみようじゃないかと新幹線を途中下車し真夏のおでん大作戦を敢行したのであった。
僕の地元は静岡県西部。そして静岡市は中部なので、横長で通過するものをうんざりさせるでお馴染みの静岡県ということからまあまあ距離がある。そういった事情もあってほとんど静岡駅には訪れた事がなかった。たぶん前回訪れたのって中学生の頃とかなのでほぼ30年前だ。こわ。
当然静岡おでんのお店など知る由もない。しかし30年前と現在では情報入手の容易さが雲泥の差である。無計画にインターネッツに丸投げしお店を探しあてたのであった。本当に現代に生きていてよかったと思える瞬間である。
駅からほど近いお店を目指し、問題なく現地に到着。しかし目にした看板に不安がよぎる。
辿り着いたのは和菓子屋であった。店内をのぞいてみても和菓子以外に何を出すのかというくらいに平熱で和菓子が陳列されている。暑い中妻子を連れ回して目的のものにありつけないなどということになったら妻の修羅を呼び起こすこととなる。おそるおそる店員さんに問いかけた。
「あの…おでんって食べられるんでしょうか…?」
どう考えてもおでんと結びつかない店内でこの問いは一歩間違えば狂人扱いされかねないが、店員さんは顔色ひとつ変える事なく「ええ、こちらにどうぞ」と僕らを案内してくれた。おお、本当におでん食べられるんだ。
通してもらったお店の奥にはイートインスペースがあり、カウンターとダイニングテーブルほどのテーブルが設置されていた。それだけであれば普通の光景だが、テーブルを囲むように椅子が置かれており、そのテーブルの中央には埋め込み式のおでん鍋が鎮座している。
完全にこれまでの人生で見たことのない景色だ。和菓子屋の奥に案内してもらったらおでん鍋が設置されているテーブルがあるなど。なんならちょっと夢の中の光景っぽさすらある。こんな夢の話を聞かされたら「とっ散らかった夢だなあ…」と感じそうなものだが現実である。世の中こんなものかもしれない。
先にお伝えの通り、店先には「静岡おでんやってます!!」みたいなセールストーク的文言は一切ない。店の奥に当たり前のように存在するおでんというところが最高だ。たぶん地元のひとが昔から凪の気持ちでこのおでんを食べてきたのだろうと思う。良い意味で特別感のないケの食べ物として。実際、僕らが食べている間にも持ち帰りでおでんを買って行ったひとがいたのでそういうことなのだろう。
ただ一点、一点だけ心残りがあったとすればこの最高な静岡おでんを酒アテにしてお酒を飲めなかったことだ。お店がお酒を提供していなかったのである。和菓子屋なんだからそりゃそうよと言われればそうなのだけど、けっこう飲む気満々で訪れていたのでわりとしつこめに店内にお酒の気配を探ったが見つけることはできずしょんぼりおじさんであった。僕らの後に訪れた夫婦の夫さんも妻さんから「ビールなんてないからね」と言われ、当然あると思っていたものがなかったときのテンションで「え、そうなの?」と肩を落としていた。わかる。わかるよ。
こうして(お酒のくだり以外)大満足で店を後にした。ふだんわりと控えめな量を食べる妻がもりもり食べてたのでその満足度がうかがえる。そして看板商品である黄金まんじゅうをゲットしていた。しょっぱいものを食べてそのまま甘いものにスライドできるというのもこのお店の良いところだと思う。ちなみに黄金まんじゅうはいわゆる今川焼き的なものでした。(写真忘れた)
静岡おでんといえばB級グルメがはやった頃に名を上げた印象ではあるが、今回訪れた地元密着っぽさのあるお店に行けて本当によかった。素顔の静岡おでんを見られたような気がする。この調子でB級グルメグランプリでしか知らないような地元名物の素顔を知っていけたら良いなと思うのでした。(すぐ斜に構えがちなので)