普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

トー横界隈という熱狂

トー横界隈という言葉がある。歌舞伎町の東宝シネマ横にたむろする若者たちのことをそのように呼び、トー横キッズなどとも言われる。僕のようなトー横というと東横インを思い浮かべてしまうおじさんの耳にも話題が届く程度にはなにかと問題のある出来事が起こっているようである。

このトー横、なぜだか気になる。なぜ気になってしまうのかなと自分なりに考えてみたが、あの界隈から静かな熱狂を感じるからなのではないかという考えに辿り着いた。熱狂、という言葉が適切であるかどうかはわからない。でも普通でないテンションの出来事が起こっていることには違いないのだ。

路上で宴会をしていたり、いきなりでんぐり返りしたり、市販薬や処方箋薬でキマって酩酊状態になっていたりする。しかもそれがほとんど10代も含めた若年者の間で繰り広げられているというのだから明らかに普通ではない。

これらの行為は「悪」として行われている行為ではなく、ただのノリで行われていたりする。これが異様なものを感じ、僕からしてみたら”熱狂”という言葉でその現象を表現するに至ったのかもしれない。治安の良し悪しで言えば確実に良くはないのだけど、それがヤンキー校みたいな退廃ぶりかと言われればそれもまた違う。歌舞伎町は治安はよくなかったけど、主にヤのつく自由業の方々等、反社関連でその治安の悪さを構築していた。トー横に関しては貧民窟みたいな治安の悪さというかなんというか。「そこにいるとそうするしかない」みたいな這い上がれなさを感じる。

もう20年くらい前にはなるけれど、僕の勤めていたライブハウスが歌舞伎町のはじっこにあり、このトー横(当時はコマ劇前)も程近かったしよく通りかかっていた。だからこそ今あのあたりが異様な状態になっていることに心をざわつかせるものがあるのだ。

そして僕があのくらいの年齢だったらトー横界隈をどう見るだろうな、とも考えた。ヤバい奴らと冷笑しながらも心のどこかで憧れを抱いたのではないだろうかと思う。あの異様な空間に普通のテンションで馴染める狂人性は僕におそらくない。だから「狂ってしまえる」ことに静かに憧れるのだ。若かったら、としてみたがこれは今も思っていることかもしれない。

トー横界隈というのはそういった存在でありながらひとつの現象であると思う。その渦中に身を置くことで凡人で無個性な自分を世間より優れていると感じたいとも思うのだろう。僕の場合は、だけれども。実際のトー横キッズたちがそういうことを考えているかはとんと見当もつかないけど、がっつり病み病みな連中だとは思うのでこじれた自己顕示欲みたいなものは持ち合わせていると思う。

こじれた自己顕示欲を持ち合わせているメジャーな界隈としてV系バンギャ界隈がある。病んでいる、もしくは病んでいるふり、そして界隈への依存度の高さ。僕はこちらの界隈には片足突っ込んでいたふしがあるのでそのあたりで共鳴する部分もありそうだ。今後の人生絶対に関わることもないであろうトー横界隈に何かこうもやもやするものを感じていたのだけど、根っこはこの辺りかもしれない。自己分析大事。

ついでに触れておくとあのあたりには大久保公園という公園がある。今では柵で囲まれていて、その周りでは売春行為が横行しているらしいけれども、僕があの界隈に出没していたときには出入りは自由だったし、さすがに売春はなかった。(一本裏の通りで外国人によるそれはあったけど)

その公園でモヒカンのような頭(ドラゴンボール界王神様みたいな髪型)に刈り上げてもらったこともあったなあとふと思い出して、僕の場合治安云々より頭の悪さが際立っていたなと反省するのでした。