普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

敗者復活戦で6割うまい

職場の近くに九州とんこつラーメンを謳ったラーメン屋がある。店の名前に”博多”の文字が入るような店名で、看板の色は黄色。知る人からすれば歌舞伎町などにも存在した博多とんこつラーメンのチェーンを彷彿とさせるものがある。というか絶対そっちに寄せていると思うのだ、あれは。

これだけ”本場感”を出しているので普段ラーメン屋によく行くものとしては否が応でも期待は高まるというもの。その本場感は店側からの宣戦布告と受け取りハードルをぐいぐいと上げて入店したのだった。

「いらっしゃいましぇ〜」

若干の違和感。あれ、外国の方?まあホールのひとはそんなものかと食券を買い、店員さんに渡すとごりごりの外国語(たぶん中国語)でキッチンにオーダーを通していた。もちろん応答も同じ言語で返される。よくみると店内にいる店員さん全員日本語以外で会話していた。なんならそのとき客は僕しかいなかったので日本人は僕だけだった。無駄に旅情を掻き立てられたわ。

あれだけ九州、博多をアピールしておいて調理するひとまで含め店員さん全員外国人か…これはもしかしたらトリッキーな闘いを強いられることになるやもしれぬと覚悟を決めラーメンが提供されるのを待った。

ここでひとつ申し添えておきたいのが、僕はどのお店でも店員さんが外国人であることに不満を持つタイプではないし、きちんとしてくれればそれでよいと常々思っている。しかし、なんというかラーメン、殊更こういった九州とんこつのラーメンって「九州の魂込めてます!」という向きがあるという印象なのだ。それが九州全然関係ない飛び越して外国の方がすべての行程を担当されるとなるとラーメンスピリットが燃えたぎっていないのではないかとちょっと不安になってしまったということなのである。

そういった気持ち胸に抱えつつ素直にラーメンはサーブされるのを待つ。博多とんこつといえば細麺。比喩でなく秒でラーメンが提供される。オーダーしたラーメンもそのスピード感で運ばれてきた。ここまでは僕の知る博多とんこつラーメンムーブだ。

あ、なんか意外と…

店名から想像できる、かつて歌舞伎町に存在したラーメンチェーンの提供していたラーメンの趣がある。こってりというよりはクリーミー系のさらっとしたとんこつで、替え玉することが前提のスナック感覚のあのあれである。

それではいざ実食。

食べてみると思い出の味を上回りも下回りもしない想定内の味。店内の雰囲気からめちゃくちゃ構えていたけど全然ありだ。全然ありなのだけど、満足感としては6割くらいの「これがいい」ではなく「これでいい」といったどこか妥協感のある味わいなのが1周回って滋味深さすら感じる。「ラーメン食べたい!」で来店するというよりは「食べるもの決まらないな…ラーメンでいっか」のときの一品である。

めちゃくちゃ失礼なこと言っているかもしれないけど、頻回ではないにしろきちんとリピートしているのでまあなんというかぬるま湯くらいの温度の愛情をもって接しているのは確かだ。

実際昨日の出社時もこのラーメン屋に行った。なかなか食べたいものが決まらずにうろうろしていて、行きたいラーメン屋が思いついたので行ってみたら行列ができており心を折られて「うーん、あのラーメン屋でいっか…」という敗者復活戦くらいのテンションで訪れたのだけど。

そうして普段頼まない黒とんこつなるメニューをオーダーし「黒の質感が夏の田んぼっぽいな…」と思いながら「よしよし、6割6割…」と思うのであった。

レギュラーメニューに熱烈な思いもないので冒険できちゃう

そんな都合の良い関係のラーメン屋。忘れた頃にまた行くのだろうし、6割満足のお店であり続けて欲しいとすら思っている。