普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

わりとぬるりとアンプオーナーになった話

少しも後悔をしているわけではないけれども、バンド活動には相当な額をつぎ込んだと思う。といっても僕などは機材にそこまで執着がなかったのでまだマシなほうなのかもしれない。

とはいいつつそれなりの額で購入した機材もあるにはある。今週のお題「人生で一番高い買い物」を目にして真っ先に思い浮かんだのがギターアンプだ。

当時僕はごりっごりのメロディックデスメタル、しかもデスラッシュに近いバンドに所属していた。この手のジャンルというのは迫力のある音を出してなんぼだ。ギタリストの誰もがそうであるように、自分にとっての最高の音作りというもの追い求めてはいたものの、満足いく音作りは難航していた。

当時(20年くらい前)はインターネットで気軽に情報収集できるほどネットは整備されていないし、そもそも情報自体がネットにあまりなかったと思う。あっても某掲示板などに頼るしかなく、機嫌良く情報収集するのはなかなか難しいものがあった。

エフェクターも今ほど高性能なものはなかったので、迫力のあるディストーションサウンドを放つには結局のところギターをアンプに直接繋いで歪ませるというのがベストであるところまでは行き着いた。あくまでも個人的な好みもあるのでそれぞれのベストはあったとは思うけれども。

しかし一点問題が。リハーサルスタジオにしろライブハウスにしろ、備え付けられているアンプというのはマーシャル(アンプだけでよく歪む。パワーがある)、ジャズコーラス(略してJC。きれいな音が出しやすい。歪ませるにはエフェクター必須)、あともう一台なんか(フェンダーとかが多い)の3台というのがお決まりであった。

当時のバンドはギターが3人いるという謎編成のメロデスバンドで、僕は3人目のギターとしての加入であったため立場があまりよろしくなかった。そうなるとマーシャルといったいわゆる真空管でバリバリと歪むようなアンプは元からいたメンバーに使われ、僕はJCなどを使用することになる。

前述の通りJCで歪みサウンドを出すにはエフェクター必須だ。そしてこれまた前述の通り当時のエフェクターではJCでごんぶとサウンドを奏でられるほど信用できるエフェクターというものは存在しなかった。かどうかはわからないけどとにかく僕は知らなかった。

ストレスたまるじゃないですか。理想とかけ離れたしょぼい音で演奏するのって。ストレスは取り除くべきだ。ではどうやって?いや、ストレスから逃れるためにどうするべきかはもうわかっている。

そう、アンプを購入するのだ。

ないなら自分で準備すればよい。至極単純でありながらも愚かしさ溢れる判断で清々しい。ちなみに当時の僕はきっちり貧しく、インフラがたまに止まるというお手本のような貧乏バンドマンであった。それなのにギターアンプを買うという決断を下すのだからなかなか向こう見ずだ。

お分かりかとは思いますけれども当然一括支払いなどできるはずもないので割賦で購入した。信販会社もよく審査を通したものである。今だったら絶対に通らないんじゃないかな。しかもかなりの回数かけて支払ったんだったと思う。その頃なにかあると平気で無職になったりしてたから毎月の支払い大変だったな(遠い目)

写真ないかなと思って探したらあったのでご覧になってください。

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kochという当時は珍しかったオランダのメーカーのアンプ。ごりごりに歪む。

なにはともあれ晴れてアンプオーナーになった。これでライブのときに音作りがうまくいかなくて真顔でライブをしなくて済む。

と、思うでしょう?しかし世の中そううまくいきませんでな。写真の通りこれはあくまでもアンプ本体。スピーカーといった音を鳴らす機構は備わっていない。結局スピーカーは別途必要なのだ。しかし前述の通り対応するようなスピーカーはマーシャル用の一台のみ。当然僕もそのようなものを持ち込めるわけがない。そうなるとどうするか。

JCをスピーカー代わりに使うのだ。一応説明しておくとJCはそのように使われるように作られていない。完全に用途外の使用方であるだけでなく、もっというとJCとしてのアイデンティティを冒涜するような使い方であったとすら言える。育ちのよいお嬢ちゃん、お坊ちゃんがたまにワルのふりしてエフェクターで歪みサウンドを放っていたと思ったら南蛮渡来の種馬みたいなやつがやってきてがっぷりよっつで奥歯ガタガタ言わされるわけである。脅威でしかない。

しかもそこまでやっても所詮は用途外の使用方。まったくいい音とか作れないんですのよ。僕のアンプは低音を出すことに特化していたアンプなのだけど、JCのスピーカーではその低音をさばききれずにぶわっぶわな音にしかならなかった。まあそりゃそうだよなとしか言えない。そこまでしてでも音をなんとかしたかったという熱量はやはり若さだったのだな。

その後、そのバンドからは程なく脱退し自分でバンドを立ち上げたので本格的にこのアンプを使い倒していくこととなる。他に使っているひともあまりいなかったので「kochのひと」で覚えてもらえたりとかでそれもよかったな。

ちなみにお値段なのだけど、地方の街道沿いの中古車ディーラーで見かける人気のなさそうな軽自動車くらいということで。あ?そんなもんなの?とは思うけど価値を見出すことができないひとには払うのに抵抗があるライン。価値観というのはそれぞれですわなということでまた次回でーす。