普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

あなたのためにお祈りさせてくださいとは言うけれど

以前にも書いたことがあるように、信仰に関しては他人に迷惑を与えない範囲であればどのようなものを信仰していてもかまわないと考えている。それがたとえ空飛ぶスパゲッティモンスター教であったとしても。

空飛ぶスパゲッティモンスター教とか今考えたみたいな名前だけど本当にあって意外に人気のある教団らしい。軽く調べた範囲ではわりとピースフルな団体っぽいが、やたら高額な変なグッズなどが団体内でもてはやされていたりするのだろうか。腐らないスパゲッティなどと謳って乾燥パスタを崇め奉っていたり。

そういう、言ってしまえば詐欺めいた事案が発生しなければちょっとくらい独特なものを信じていたってかまわないだろう。僕が高校時代入院していたときに出会ったのもその境界線にいる方々であった。

腎臓移植のために入院をしており、手術前のあれやこれやの検査の日々。それでもなんだかんだでゆったりのんびり過ごしていた。

どういうルールになっていたかは定かではないが、高校生である僕は小児科に入院していた。小児科といったら当然子供が入院するところだ。幼児の入院には保護者の泊まり込みでの付き添いが許可されるケースがあり、僕のいた病室もそのケースにあてはまる幼児が入院していた。

ちなみに、その部屋は2人部屋で、お隣さんはたぶん4、5歳くらいの子が患者でその付き添いとして母親。子供の年齢からどう歳をとっていても30代。30代人妻が隣で寝起きしているのである。僕はあまりピンときていなかったが、好きなひとにはたまらないようなシチュエーションだったのではと今では思える。

患者は子供なのだけど、結局会話したり何かしらの気を使うのは母親な訳で、あれこれと会話をしているうちにそれなりに仲良くなってくる。そうすると少し立ち入った話になるというものだ。

隣の子供は結構な難病だったんだと思う。なんの病気だったかはいまいち覚えてないけれど。そこでお母さんは日々お祈りしているのだという。子供に手をかざして。

知っているひとなら「お?」と思う方もいるかもしれない。たぶんそれなりの規模で信者も少なくない教団内で行われるそれである。

僕は肯定的でも否定的でもなく、かといって信じるわけでもなくのらりくらりとその話を聞いていたが、ある日打診を受ける。

「君のためにお祈りさせてくれないかな」

これは…

街中などで声をかけられたらすかさずその場を離脱するというあれだ…!しかしここは普段の生活の拠点、病室。実害があるわけでもないのに断ると今後の生活にも障りそうだ。そう思い僕は「はあ…まあ…」と明らかに乗り気でないリアクションながらもその申し出を受けたのであった。

いざ手かざしお祈りとなったそのとき、隣には旦那さんもいた。増えとるやんけ。これはこのあと一波乱あるのではと不安を感じながらお祈りしてもらい、「どうかな?」「はあ、なんか患部があったかくなったかもしれません」などとひょっとこなやりとりをしてその場はそれ以上のことは起きなかった。

結果的に言うとお祈りはその一回だけで、僕があまりに打っても響かなかったものだからお祈りの対象から外れたのかもしれない。

それにしてもいきなり現れた旦那さん、これがまた良いひとで、ふだん幼児と母親との会話で物足りなかろうと男目線で僕と会話をしてくれたりしたのだ。その会話の中で「ギター弾いてるんだね、どんなバンドが好きなの?」と聞かれたので当時入れ上げていたLUNA SEAをはじめとしたV系だと伝えたところ、「へ〜、僕はそういうの聞いたことないな〜」とまあ妥当なリアクションであった。

そして後日「君のこと理解しようと思ってこれ買ってみたんだけど、ちょっとわからなかったわ!ごめんね。でもこれせっかくだからもらってよ!」

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Xのファーストアルバムである。え?そこチョイスすんの?という一枚。LUNA SEAはかなり売れていたし、Xだってもっとキャッチーで売れているアルバムもあった。なぜこれを…

とは思ったもののまあ持ってないやつだしくれるもんならありがたいしもらっとこってなものでもらっておいた。もうちょい警戒したまえよ、君。

一連の出来事を母に報告したところ、母はすぐに特定の教団の行為であることを悟り、何を言うでもなく味わい深い顔をしていた。自分の子どもが軽くはない病気であるが故にそういったものに傾倒してしまうということを否定しきれなかったのかもしれない。

その後手術日当日まではその親子ともそこそこ仲良く過ごし、移植手術当日を迎えたのだった。手術日当日にやらかしたことなどは上に貼ったエントリーを参照されたし。

 

あ、最後にひとつだけご報告しておきますと手かざしご夫婦、月刊ムーの愛読者でございました。

絶妙でしょ?