普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

移植入院時のよもやま話 手術編

前回に引き続き移植入院時の話を。これっていわゆる自分語りなんだろうか。まあよいか。記憶の棚卸しのようなものだと思おう。語れる過去があるだけよいと信じる。

腎臓移植というのはたぶん移植界のなかでは手術そのものはそこまで難易度の高いものではないのだろうと思う。あくまでも移植手術のなかでは、という話だが。

ひとの内蔵入れ替えるんだからやってることとしてはおおごとだ。というよりも俯瞰で見たら正気の沙汰ではない。呪術的儀式っぽさすらある。おおごとなのだけど、一周まわってプリミティブだ。

当然ながら入院中は担当医がつく。僕を担当してくれていたのは中年医師と若手医師のコンビだった。今思えば二人とも浦沢直樹の漫画に出てきそうな顔をしていたな。中年医師はMonsterのルンゲ警部、若手は20世紀少年のケンヂに似ていた。

執刀はケンヂ先生がするということを聞いていたが、知識や経験という役割でルンゲ先生と組んでいたのだろうと思う。

それにしてもケンヂ先生は若手で移植手術の執刀を任せられるだけあってなのか、とてもギラついていた。高校生だった僕から見ても野心に満ち溢れているのが見てとれたほどだったのだから相当だろう。

入院していた病院はそれなりに大きい病院だったので派閥争いとかそういったものもおそらくあったのではないかと思う。そんななかで自分の功績を積み上げている最中だったのかもしれない。ちなみに前回の「しかっとする」発言はケンヂ先生のものだ。

 

肝心の手術であるが、当然のことながら全身麻酔が施されるので何をどうされていたのかは覚えていない。しかしやはり時間はかなりかかっていたようで、午前から手術を始めていたと思うのだけど、術後目覚めたときには日が暮れていた。

麻酔から醒めるとき、気道にチューブを通されているなどと気づいていないので目覚めた瞬間呼吸が出来ずに焦った。ああいうものなか、僕の呼吸が不器用だったのかはわからないけれど、一瞬「死ぬな」と本気で感じたのだった。そのほか身体には様々な管が挿入されていて、当然尿道カテーテルも入っていた。そのときはまだ気づいてなかったけれども。

術後はICUに入り、不測の事態に備えた。術後の経過を見るのに都合が良いというだけでICU入りしていたからだと思うが、テレビを見ることが許可され、ICUにテレビを持ってきてもらって麻酔から醒めきらない頭でぼんやりとテレビを眺めていたのを覚えている。

特に映画のゴーストがやっていたということが記憶に残っていて…というよりも、ゴーストってほら、あのろくろの有名なシーンがあるじゃないですか。そこなわけですよ。よく覚えてるのは。当時高校生の僕からしてみればあのろくろのシーンだって立派におピンクシーンなわけですよ。ストーリーとか関係なく、男女の絡みとしてみてしまうわけですな。そうするとどうなると思いますか。そう、そうなんです。ふつうに男のスイッチがオンになるわけですな。

しかし入道にはカテーテル。ぐいぐいと勢いを増すと同時に痛みも増し、その痛みであっという間にスイッチがオフになるという今思えばわりと希少な体験だったかもしれない。そりゃあ思い出深くもなるというものだ。

というか術後、しかもほぼ直後といっていいタイミングでそんなことになるんだから高校生って元気いっぱいだな。我ながら素直にすごいなと思う。

ICU生活もすぐに終わりナースステーション前の個室に移るわけなのだけど、そこからの生活がなかなかにして最高だった。人生で一番自堕落な生活をしていた期間かもしれない。

また長くなってきてしまったのでその話はまた改めての機会に。

さすがに連続すぎるのはあれなので期間をおいてまた。