普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

かつての移植入院時のよもやま話

成人以降はそうでもなかったけれど、学生時代はとにかく入院することが多かった。とくに高校時代は大袈裟でもなく三分の一くらいは入院していたのではないかと思う。そのせいで留年したくらいだ。

その入院のなかでも最も長く入院したのが腎臓移植をするための入院だった。12月の頭くらいから年をまたいで4月の中旬くらいまでだったか。いやあ、長い。

そんな長い入院というとよほどの病状であったのではと思われるかもしれないが、そういったことはなく、入院患者らしく入院生活したのはせいぜい1週間くらいだっただろうか。移植手術後の少しの間だけだ。

当時だからなのか、その病院の方針なのかはわからないけれど、移植の前には身体中を検査する必要があったらしく、術前1ヶ月はその検査に費やされた。もちろん毎日フルで検査しまくっているわけではないので基本的にはゆったりとした時間が流れているわけだけれども。

その検査の中でも印象に残っているの検査が三つある。耳鼻科、精神科、泌尿器科だ。

まずは耳鼻科。待ち構えていたおじいちゃん先生からインフルエンザ検査のときに鼻の穴の奥へ綿棒をぐりぐりつっこむあれより過激な仕打ちを受ける。涙目どころか普通に泣くほど痛かった。ひととおりサディスティックな検査も終わった後におじいちゃん先生がこう言った

「鼻が詰まってたり悪かったりすると手術は成功しないからね!」

何言ってんだ、このじじい。と、そのときは思ったものだが、術後目が覚めたら気道に管が通されていたのでたしかに鼻詰まりなどあると問題だなと今なら思う。ごめんよじじい。

あのぐりぐりは相当痛かったけど、PCR検査もあれくらい痛いのだろうか。検査するようなことにならないように気をつけよう。

 

精神科の受診も思い出深かった。なぜ精神科?とやはりこのとき思ったが、術後個室で長い間ひとりの時間を過ごすことになるので精神面に不安定な部分がないかを確認するためだったのかもしれない。

細かいことは忘れてしまったが、ロールシャッハテストを行ったのはよく覚えている。というかそれしか覚えてない。ロールシャッハテストとは紙にできたインクのシミを見て何に見えるかを答えるものだ。

いくつかのインクのシミを見せられ、そのたびに思いついたものを答えていたのだけど、とあるインクのシミを見たときに思ったまま「コウモリに見えます」と答えたら「はんっ笑こうもりですか?笑」と笑われた。それ、このテストでやっちゃいかんやつなのではと思ったがぐっとこらえた。あの女医め。あれはコウモリだろう。

でもたぶん模範解答みたいなものがあってあまりにもそれとずれた回答を僕がしたから、というのが理由はのだろうな。あれで何がわかったかというのはその後聞かされていない。せっかくだから聞いておけばよかったな。

 

もっとも印象深く記憶に残っているのが泌尿器科、というか尿道の検査である。移植に至るような腎臓病患者は尿が出ないことも多いので、術後に尿がきちんと尿道を通って排泄されるかということの検査だ。

手術台みたいなものの上に横になり、尿道カテーテルを挿す。男性読者はもう股のあたりがそわそわしていることだろう。僕も思い出すときゅーっとなる。きゅーってなんだって思うだろう。しかしそのときカテーテルを挿す直前に言われた

「ちょっとしかっとするけど我慢してね」

に比べればよほどニュアンスとしては伝わるはずだ。ていうかしかっとするってどんな感じだ。後にも先にもしかっとするという表現はそのときしか聞いたことがない。

入院していたのは名古屋の病院だったので当地の方言であった可能性もある。名古屋あたりではえんぴつを鋭く削りあげることをときんときんにするって言うくらいだしな。

などと思い今検索してみたら岐阜あたりではちくちく、むずむずする感覚を「しかしかする」と言うらしい。あの医者さては岐阜出身か。20年以上たって少し真相に近づけた。

 

と、思い出深いことをつらつらと書いていたら結構長くなってしまった。この続きはまた次回にでも。移植入院中のことは備忘としてもまだ書きたいこともあるので。

しかっとするの意味もすこしわかったのでこれは収穫だった。

 

ではいいですか、尿道カテーテルを挿すとしかっとする。今日はこれだけ覚えて帰ってください。