普遍と平熱

かつてけっこう本気バンドをやっていて、途中で透析が始まったひとの平熱くらいの温度感の話

パイドパイパーの知名度は如何ばかりか

かなり前の話になるのだけど、CDやレコードのジャケ買いのようにマンガを帯と絵柄のみで選んで買うということをしていた時期がある。

前評判とかそういった情報もないので本屋での直感で買うというある意味ギャンブル的な要素、そして作品との一期一会っぽさを楽しんでいた。

そんななかで出会ったのが「パイドパイパー 作:浅田寅ヲ」である。

これなんですけどね、結構マンガとかアニメとか好きって言ってる友達が多いほうだと思うのだけど、そんななかでも知られていなかったという微妙な位置のマンガなのです。でもすすめますけども。

ざっくりいうと東京の城東地区を舞台とし、日本で生まれ育った二世の十代のひとびと、あるいはUS生まれのギャングのひとなどがあれよあれよという間に派閥の抗争に巻き込まれていくというような話なのだけど、テーマの物騒さに比してキャラクター、台詞回しがキャッチーであり、それがむしろ十代っぽさのリアリティを感じられるような気がするそんな作品であった。

台詞回しがキャッチーだという部分をもう少し説明すると、あまり「マンガのセリフっぽくない」とでもいうのか、崩しすぎくらい崩した口語での表現で、言ってしまえばチャラさすらある。でもそれがキャラクターにマッチしていて愛着が湧くのだ。

そしてキャラクターもいかにもケンカばかりしていそうな不良、ヤンキーということではなく、マイペースでマニアっぽいのんびりメガネがいたり、犬のような性格の中国系アメリカ人のギャング(めちゃめちゃ強いけど語彙力が低い)、変態性癖のママ活高校生(主人公)がいたりして目が離せない。

絵柄が好きであるというのはもちろんあるのだけど、キャラクターがスタイリッシュさを醸し出しているのも上記のキャラと相まってより引き込まれる理由なのだろうと感じる。

マンガのコマを引用できるサービスがあると聞いたのでそれを使えば権利の問題とかクリアして紹介できるかなと思ったけど、パイドパイパーはそこになかった。当たり前といえば当たり前か。

あとは他のマンガであまり見られない表現というと、みんな生まれや育ち、得意とする言語が違うので日本語、英語、中国語(のなかでも広東と北京とか)の違いを表現するときに吹き出し内の言葉は日本語だけれど、言語によって吹き出しの色やフォントを変えてあったりする。これって結構マンガの表現として画期的だなあと感じたのだ。この表現によってそのキャラクターが思わず共通言語としての日本語ではなく感情的に母国語でしゃべってしまったりという心の動きも察することができる。

フォントといえばセリフそのものではないけれど、オノマトペを表現するときに絶影フォントを使用していたのも印象深い。絶影フォントがどんなものか説明しようとすると難しい部分があるのだけど、尊敬も敬意もないような説明をしてしまうと巨大迷路、しかもRPGに出てきそうな古代っぽさのある迷路の地図を切り分けたような感じだ。余計にわかりにくくしてしまったかもしれない。いやとにかく独特というか、可読性という言葉の外にあるフォントなのでぜひ一度は検索等していただきたいところです。

おすすめしたくて魅力を語ったつもりが余計にわかりにくくなってしまったかもしれない。でも群像劇が好きで、キャラに愛着を持ちがち、暴力表現もマンガの中なら大丈夫というひとなら頭の片隅に置いておいて欲しいタイトルである。

ちなみにこの浅田寅ヲというひとなのだけど、ウィキペディアによるとバイオレンス作家を自称しているらしく、他の作品にはスプーンマンという作品があり、それもまたクセのあるマンガで好きで何度も読んでいる。

問題は「スプーンマン 上」と銘打って出版されているにも関わらず、この世に下巻が存在しないことだ。たがら上巻だけを何度も読んでいる。下巻読みたい。

 

おすすめのマンガを気にしてもらえるかどうかよりも気になっているのが冒頭で「ジャケ買い」という言葉を使用したけれど、今の世の中ジャケってなに?ていうかCDとかレコードって?となりそうだと思ってしまった。

いやー、いいんです。僕は気に入ったものは物理的に入手しますとも。

僕の愛には形があるのだ。